大人のがんとの違いを考えてみましょう。
私自身は大人のがんにも5年ほど関わり、その後小児がんを専門としました。
代表的なものとして、大人では胃癌、こどもでは副腎の神経芽腫を例に取ります。
大人の胃癌の場合
健診のバリウム検査で発見
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内科で内視鏡検査
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病理検査で胃癌と診断
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手術
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術後化学療法(抗がん剤治療)
こどもの神経芽腫の場合
風邪でかかりつけの小児科を受診
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おなかの触診で偶然発見
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総合病院の小児科でCTで副腎腫瘍と診断
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入院・生検で神経芽腫と確定診断
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術前化学療法(抗がん剤治療)
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手術
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術後化学療法(抗がん剤治療)
このような違いがあります。ポイントは術前化学療法です。ここが大きく違います。
ここで大きな腫瘍を一気に小さくした上で、手術で取るのです。
大人の場合は、そこまで薬で一気に小さくできませんので、外科医は大きな腫瘍でも頑張って挑みます。
こどもで最も多い腫瘍です。
副腎(左右腎臓の上にある小さな臓器で、アドレナリンなどのホルモンを作っています)や、神経にできます。神経芽腫と聞くと、神経や脳にできると思われがちですが、実は副腎にできることが一番多いです。
基本的に化学療法が良く効きます。化学療法で小さくした上で、切除します。
1歳前に発見されたものと、それ以降に発見されたものとでは、予後(治るか治らないか)が違うことが分かっています。特に乳児期に見つかったものは、何と自然に小さくなる(治る)ことが多く、これは驚くべきことです。
前述したマススクリーニング(6ヶ月乳児の尿を取って調べる)は、この「自然に治る」ものを相手にしていたことが分かり、廃止されました。
1歳以降で転移があるようなものは、未だにあまり成績が良くありません。それでも濃厚な治療で助かる子もいますので、私たちは全力を尽くします。濃厚とは、大量化学療法のような強い治療、徹底したリンパ郭清のような手術、などです。
逆に、1歳未満の小さな腫瘍でしたら、全く治療をせずに経過観察をしたりもします。
また、がん細胞の性質によっても治療成績が変わります。
例えばmycNという遺伝子がたくさんある腫瘍はかなり手ごわいことが分かっています。他にもいくつかのいわゆる「予後因子」があり、これらに年齢や部位などを勘案して治療方針を決めていきます。
別名をウイルムス腫瘍と言います。こどもの腎臓にできる腫瘍です。
これも治療の流れは神経芽腫と似ていますが、手術は基本的に腫瘍のある腎臓を摘出します。腎臓が大切だからといって無理に残そうとすると、そこから再発するためです。
また、肺に転移しやすいですが、化学療法で消失することもありますし、転移した腫瘍を手術で摘出すれば治癒は期待できます。
できる場所的にはおとなの肝臓がんに相当するものですが、別の腫瘍です。したがって、おとなの肝臓がんの治療とは全然違います。
両者に共通することは、腫瘍マーカー(AFP)が高くなるということ、手術は肝切除術をすること、肝切除が不可能な場合には肝移植をすること、です。
違うことは、肝芽腫は化学療法が非常に良く効くため、まず化学療法をやって腫瘍を小さくしてから手術に臨むこと、肺転移をよく起こしますが、これも手術で徹底的に切除すれば助かることがあること、B型肝炎、C型肝炎は関係ないこと、です。
体中どこにでもできる腫瘍です。頻度は多くありません。
化学療法が良く効きますので、通常は生検をして確定診断されたら化学療法を行い、小さくなったところで手術で取り除くのが一般的です。
小児の固形腫瘍では比較的多いものです。
といっても、全国で最も多くの症例を経験している病院の1つである当院でも、年に1例くらいです。小児がんがいかに少ないかが分かります。
これも化学療法が重要で、整形外科により病巣の摘出を行います。肺転移が多く、これが予後にとって重要です。私は、この肺転移を手術で切除することを担当しています。
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