正直、2003年までは重症筋無力症の患者さんを見たことはほとんどありませんでした。
私の勤務する神奈川県立こども医療センターには神経内科があり、重症筋無力症を含め、たくさんの患者さんを診療しています。
ある日、神経内科の先生から「重症筋無力症の患者さん(12歳の女性)の胸腺摘除をお願いしたいのですが」という依頼が来ました。
当時、小児の重症筋無力症で手術をすることは一般的でなく、余程の理由がある場合のみでした。そのため、この病院でも胸腺摘除は何年に1人のペースで滅多にない手術でした。
手術方法を検討してみました。
大人の患者さんでは、内視鏡を使った傷の小さな手術で胸腺を摘除する方法を学会で見たことがありましたが、小児ではいわゆる胸骨正中切開(胸の中央を首からみぞおちまでまっすぐに切る)が普通でした。
しかし、これでは思春期の女の子にとってとても大きな傷痕が残ります。
私は内視鏡下手術を特に大人の胆嚢摘出術ではたくさん(約200例)経験しており、傷痕が小さく優れた方法であることを良く知っていましたので、子供の胸腺も内視鏡で取りたいと思いました。
そこで、論文や学会発表を頼りに手術法を探し、いろいろ検討の結果、当時大阪警察病院におられた城戸哲夫先生の開発された方法が小児では最も適していると考え(理由については「重症筋無力症手術について」をご覧ください)、城戸先生に連絡をとりました。
城戸先生は当時、呼吸器外科部長で多忙を極めていたにもかかわらず、横浜まで来て下さり、最初の手術を執刀していただきました。
その結果は良好で、傷痕も非常にきれいでした。
私と城戸先生はこの成功に自信を持ち、これから小児の重症筋無力症に対して、この方法で進めていこうと決意しました。
以後、手術のたびに城戸先生が大阪から駆け付けて下さり、今までに19名の手術を全例成功させています。
今は城戸先生に助手をしていただき、北河が執刀しています。今のところ、輸血を要した例はありません。また、全員が術後5日以内に元気に退院しています。
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